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海外進出
掲載日:2023年12月 1日

KIP国際化支援専門員コラム Vol.4 「電気自動車(EV)でCO2削減を本当にするためには?」

短中期的にはハイブリッド車によるCO2削減の方が、効果が大-国際化支援専門員 小島

1.現状のEVを内燃エンジン車(ICE)とCO2排出量を比べてみたら

少し古くなるが、2021年に欧州の自動車メーカーのボルボが同社のSUV電機自動車であるC40の「ライフサイクルCO2排出量」を報告した。「ライフサイクルCO2排出量」とは、自動車の製造、物流、運転走行、廃棄までを含めたCO2の排出量を合計したものである。
以下は、ボルボが発表したEVとICE(内燃エンジン)車との「ライフサイクルCO2排出量」の比較表である。縦軸は20万キロ走行時のCO2排出量である。当然、ICEは走行時のCO2排出量が多く、EVのチャージする電気の発電時に発生するCO2が少なければ走行時のCO2排出量も少なくなる。興味深いのは、部材生産・精製に掛かるCO2排出量がICEの方が少ないということだ。

Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf (volvocars.com) 日本語コメントは小島

次の図は、走行距離に比例してCO2排出量がどのように変わるかを示したもので、ICE(内燃エンジン)と比較して、EVが何キロ走ればCO2排出量が逆転できるかを表している。発電方式についての世界平均ミックスの電気を使った場合、11万キロ走らないとCO2排出量の削減には繋がらない。同様に、EU平均ミックスの電気の場合は7万7千キロ、風力発電の電気の場合は4万9千キロの走行が必要だ。日本の場合、自動車の年間平均走行距離は約1万キロと言われており、EVがICE(内燃エンジン)のCO2排出量より低くなるためには、世界平均ミックスの電気の場合は11年、EUミックスは7.7年、風力発電の電気でも5年近く乗らないとCO2排出量の削減には繋がらない。
 
Volvo-C40-Recharge-LCA-report.pdf (volvocars.com) 日本語コメントは小島


以上から見えて来るのは、単純にICE(内燃エンジン)車をEVに置き換えるだけではCO2削減には繋がらない、ということである。
ボルボのXC40(内燃エンジン)の燃費は、約13km/Lである。XC40と同等モデルのハイブリッド車であるトヨタハリアーの燃費は約26km/Lである。つまり、トヨタハリアーはボルボXC40の運転走行時のCO2排出量は2分の1であり、「ライフサイクルCO2排出量」で比較してもC40(電気自動車)がEU平均ミックスの電気を使って運転走行した場合よりもCO2排出量が少ないということになる。

2.EVで本当にCO2削減するためには

以上のように、単純にICE(内燃エンジン)をEVに置き換えてもCO2削減に繋がらないということが分かってきた。2021年度の日本のエネルギー供給は、化石燃料による火力発電が72.9%を占めている。利用者から徴収する再エネ賦課金(2023年度は1.4円/kWh)により自然エネルギー比率は増加してきているが、いつまでも高いコストを掛けて自然エネルギーを推進し続けることは出来ない。また、CO2の排出が少なくて発電コストが安い原子力発電の再稼働も遅々として進まない。このような状況で、「安価でCO2をなるべく排出しない方法で発電した電気」を使って走行するEVでなければ、CO2削減の効果が少ないといわざるを得ない。安定したCO2排出量の少ないエネルギー比率を如何に増やすかがEVのCO2削減に繋がると言える。
以下の図は、世界の18か国の発電構成である。CO2排出が少ない発電方法としては、自然エネルギーと原子力がある。
近年、中国の新車販売台数におけるEV・PHEVの比率は大幅に伸びて、2022年時点で29%となっており、およそ3台に1台が電気自動車という計算になる。このような状況で、EVに慎重だった日本の自動車メーカーは中国でシェアを落としている。しかし、中国では最もCO2排出量が多い石炭火力よる発電が60%以上であり、EV比率が高まれば高まるほど、「ライフサイクルCO2排出量」は増えてしまうという大きな矛盾を抱えている。それは米国も同様で、約60%の電気が化石燃料によって発電されており、EVが増えれば「ライフサイクルCO2排出量」が増えてしまう。日本も例外ではなく、化石燃料による電気が70%を越えており、当面はハイブリッド車を増やす方が遥かにCO2排出量削減に効果があるということになる。
この図にはないが、ノルウェーの例は特異である。ノルウェーでは、水力発電が90%以上を占め、また、新車販売のうち80%以上がEVとなっている。このように自然エネルギー由来の電気比率が高い場合には、EVはCO2削減に効果があると言える。
以下の国々で、EVがCO2削減に効果がありそうなのは、自然由来および原子力による発電比率が高い国で、北欧、フランス、ブラジル、カナダ等である。しかし、欧州ではウクライナ紛争以来、電気代が高騰しており、ノルウェーも例外ではないと聞く。エネルギーコストもEV普及には大きな課題と言えよう。

 国際エネルギー | 統計 | 自然エネルギー財団 (renewable-ei.org)

3.工場の製造工程、材料でのCO2削減

EVの製造工程やバッテリーを含む材料でのCO2排出量はICE(内燃エンジン)より多い。この部分の改善によるCO2削減も見過ごせない。
日本の自動車メーカー各社は2050年までにカーボンニュートラルを実現すると発表しているが、各社はその達成目標時期の前倒しに動いている。日本の自動車工場全体では、この10年で3割もCO2排出量を削減している。それを2050年までにゼロにするという計画である。
また、部材についてもプラスチックはバイオプラスチックに切り替えたり、型締め力の大きな大型のダイカストマシンを使い、数十点の板金部品で造る部品を一体物として成形する技術を導入したりと、自動車メーカー各社は既に動き出している。
更に、電気自動車の動力系の主要部品である「モーター」と電力を制御する「インバータ」やタイヤに繋がる「トランスアクスル」などの装置を一体化した「eアクスル」を採用して小型軽量化することで、製造工程の単純化や部材の削減を図っている。
  


次世代自動車・工場CO<sub>2</sub>排出 | JAMA - 一般社団法人日本自動車工業会

4.最後に

昨今、日本の自動車メーカーは、「EVに乗り遅れた」、「CO2削減に熱心ではない」、「ハイブリッド車はガラパゴス化した」とか喧しいが、実は、日本の自動車メーカーが、諸外国と比べて過去20年で最もCO2削減をしてきているという事実がある。決して、日本の自動車メーカーが他国に後れを取っている訳ではない。
EVは、まだ、発展途上の技術であり、EVを導入すれば直ぐにCO2の削減に繋がるものではない。CO2を排出しない安定的な発電方式による電力を増やすこと、部材、工場の生産工程や物流でのCO2排出を抑制する技術や材料の導入、全固体電池やeアクスルの導入によるEVの「電費」の向上など、多くの課題が残されている。ある意味では、EVを軸に大きく社会構造を変化することが出来なければ、EVを導入してもCO2削減には繋がらない。
やはり、短中期的にはハイブリッド車によるCO2削減の方が、効果が大きいと思われる。ハイブリッド車で時間稼ぎをする間に、EVの技術革新とCO2排出の少ない発電を増やすこと、充電などのインフラの整備を行いながら、徐々にEVに移行して行くことが現実的であると思われる。

CNData1203 (jama.or.jp)

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