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海外進出
掲載日:2025年6月13日

国際化支援専門員コラム 「トランプ相互関税でベトナムが高関税を課せられた理由を分析する」

国際化支援専門員コラムは、さまざまなテーマで不定期に掲載していきますので、お楽しみください。
今回は「トランプ相互関税でベトナムが高関税を課せられた理由を分析する」をお届けします。

はじめに

トランプ大統領が発表した「相互関税(Reciprocal Tariffs)」政策は、全輸入品に最低10%の関税を課し、その上、中国やベトナム、日本などの貿易赤字国に対しては高い追加関税を上乗せするという強硬な通商方針は世界に衝撃を与えた。その後、各国は米国と個別交渉を行っており、ベトナムは素早く交渉し、90日間の関税猶予を勝ち取った。アセアン各国は、高率な「相互関税」を掛けると発表しており、このようなことになれば、東南アジア諸国を、むしろ、中国側に押しやってしまうのではないかと懸念される。それでもトランプ政権が東南アジア諸国に高関税率を発表した背景を、ベトナムを中心に見てみたい。

1.トランプ相互関税

 以下は当初、発表された主な国・地域の「相互関税率」である。
トランプ関税、中国104%に70カ国交渉も世界不況懸念 - 日本経済新聞

その後、5月12日に、中国に対しては、125%まで引き上げた相互関税率を廃止し、当初の34%に戻し、その上で、24%の執行を90日間停止し、ベースライン関税の10%を適用すると発表した。上の図によると、ベトナムやカンボジアがそれぞれ46%、49%と大変な高関税率である。上の図にはないがインドネシア(32%)、バングラデシュ(37%)とやはり税率が高い。

なぜこのようにアセアン諸国に高関税率が適用されたかというと、そもそもこれらの国は対米貿易で大きな黒字を出している上に、所謂「迂回輸出」と「チャイナ+1」が要因ではないかと思われる。
「迂回輸出」とは、中国製品をベトナムやカンボジアに持ち込み軽微な加工をして、「メイド・イン・ベトナム」や「メイド・イン・カンボジア」として、中国に課せられている高関税を回避して米国に輸出する方式である。これにより、中国製品は米国の対中関税を回避し、低コストで市場に流入する。

また、「チャイナ+1」は、中国の地政学的リスクや政府の外国企業に対する予測不可能な対応リスクによるサプライチェーンの混乱を回避するために、中国に加えてもう1つの国で生産する対応であるが、これも結果的に、「迂回輸出」と同様に、米国の中国に対する厳しい貿易政策を回避することができると思われる。
ベトナム政府は、中国企業の「迂回輸出」のために自国が利用されているとの指摘に対応するため、輸出品の原産地証明の厳格化し、例えばラベルの張替えのような軽微な作業では「ベトナム製」とは認めない、との対応を取った。

このようなアメリカによる高関税政策が取られた場合、アジア諸国の経済に甚大な影響を及ぼす。以下の図のようにアジア全体で5%前後の経済成長が失われるという試算もある。

アジア、相互関税で成長率0.9ポイント低下 26年試算 - 日本経済新聞

2.ベトナムの貿易構造

ベトナムは、リーマンショック以降、貿易黒字化し、コロナ禍期間は黒字幅が減少したが、一貫して黒字幅が増加してきた。アメリカに取ってベトナムは、2023年実績で、中国、メキシコ、ドイツ、日本に次いで第5位の貿易赤字国である。
ベトナムの貿易収支・貿易輸出入額の推移 - 世界経済のネタ帳

以下は、ベトナムの主要輸出国と輸入国である。輸出国は米国、中国、韓国の順で、輸入国は中国、韓国、日本である。
ベトナム貿易・輸出の基礎知識(2024年更新) | 貿易ドットコム

以下は、主な輸出品と輸入品である。ベトナムは典型的な「加工貿易国」であり、材料や部品等を輸入して、それらを加工したり、組み立てたりして完成品を輸出している。

品目だけでは分からないが、主に中国、韓国、日本等から部品や材料を輸入し、アメリカ、中国等に完成品を輸出する形態であると思われる。

3.ベトナムの具体的な輸出入に関わる産業の動き

(1)電子機器系

Apple(アップル)
主要サプライヤーのFoxconn(鴻海)やLuxshareが中国以外に分散。AirPods、iPad、Apple Watchなどの一部をベトナムで製造。
Samsung(サムスン)
すでに生産の多くを中国からベトナムへ移行済み。世界中に出荷されるSamsungスマホの50%以上がベトナム製。
Google
Pixelスマホの一部生産をベトナムに移転。サプライチェーンの多様化を進行中。
Dell、HP
中国からの輸出リスクを軽減するため、ノートパソコンの組立の一部をベトナムに移行。
Google
サプライチェーンの多様化でPixelスマホをベトナムで生産開始
Intel(インテル)
地域分散と輸出強化のためホーチミン近郊にアジア最大級の工場を開設した。

(2)アパレル・ファッション系

Nike(ナイキ)
中国からの生産比率を減らし、ベトナム・インドネシアへシフト。現在、ナイキの靴の50%以上がベトナムで製造されている。
Adidas(アディダス)
同様に中国の依存度を下げ、ベトナム・カンボジア・バングラデシュなどへ生産移転。ベトナムが最大の供給元になっている。
H&M、ZARA(Inditex)
中国からベトナムやバングラデシュへ部分的に移行。ファストファッション系は特にベトナム製が増えている。
Uniqlo(ユニクロ)
生産の多くは中国に依存していたが、ベトナムでも急速に拠点を拡大中。複数のパートナー企業がベトナムで生産している。

(3)家電、日用品、その他

Panasonic
ベトナムの労働コスト・地理的優位さから一部の中国工場を閉鎖し、ベトナムに生産移管。
Lego(レゴ)
2022年にベトナムに新しい環境配慮型の製造拠点を建設開始。これによりアジア市場向けの供給がベトナム中心となる。
GoPro(ゴープロ)
カメラ製品の中国製造を縮小し、ベトナムに新拠点を設立。
任天堂(Nintendo)
Switchの製造を中国から一部ベトナムの製造パートナー(Foxconn関係)に移行。

4.ベトナムの現状の考察

上に挙げた企業は、米国企業も含まれており、ベトナムから米国への輸出に46%の高関税が課せられた場合、米国企業も大きな打撃を受けることになる。関税とは、外国から輸入するものに掛かる「消費税」のようなもので、一時的には企業が負担するが、最後は値上げという形で消費者が負担することになる。ベトナムから製品を輸出する企業が米系企業である場合、結果的に米国の企業にも悪影響が出るということになる。中国製品をベトナムに持ち込み、軽微な加工や組み立てを行った上で米国に輸出する「迂回輸出」については、高関税を課すことによる削減効果は期待できる。

しかし、今後の各国の「相互関税」交渉の結果でどうなるか分からないが「相互関税」の目的の一つに、「中国の不公正な貿易慣行を是正する」があることを考えると、中国に対する高率の相互関税率を引き下げたとは言え、依然として「迂回輸出」に対する厳しい目があることや、「チャイナ+1」によるアメリカの中国に対する厳しい貿易姿勢を回避するための有効な手段であることは確かである。

ベトナムが報復関税に対して対抗措置を取るのではなく「交渉」により関税率を下げるという戦略をとる理由を考えると、中国と一線を隔して、引き続きアメリカ市場にアクセスができるポジションを取っておきたいという意思を持っているということであろう。

一方、「背に腹は代えられない」のも事実であり、アメリカが中国に対する相互関税政策を緩める一方で、アセアン諸国への高率な相互関税を放置すれば、アセアン諸国はアメリカから離反し、確実に中国の貿易圏に取り込まれて行くことになる。結果として「ブロック経済圏」ができてしまい、将来的な世界の安定に課題を残すことになるかも知れない。今後のトランプ政権の関税政策に注目したい。

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